無理な依頼
27日、在庫の整理と市場出品用荷造り。事務所の一角を占拠し、目に入ると気分まで乱雑になるため見ないようにしていた本の山を崩すなど。ずいぶん片付いた。
28日、「吉祥寺パルコの古本市」補充。ちょうど文紀堂書店さんも補充にいらしていた。昨日一昨日と独り閉じこもって用意してきた紙モノ類を並べていると、「最近いいことがあって」と文紀さんに声をかけられる。聞けば、買取に行ったお宅で自分の店に依頼してくれた理由をお客様に尋ねたその答えのことだという。かいつまんで書くと次のようなことである。――ある日、本の整理を考えながらも依頼する古本屋を決めかねていたそのお客様が表参道を歩いていた。すると目の前を歩く二人組が偶然にも古本屋の話をしている。「このあいだすごくいい古本屋に本を買ってもらったんだけど」と言うので聞き耳を立てているとそれが文紀堂書店という古本屋らしい。こんなに確かな口コミはないと背中を押され、とうとうお客様は依頼先を決めることができたのだという。調布のお店が表参道でお客様を得たのである。「真面目にやってるといいことがあるよね」とおっしゃる文紀さんに胸を打たれて「ハートウォーミングな話ですね」僕は相槌を打つ。この会話、これで終わっておけばとても気分のいいものだったのだがこのあとに蛇足が付いた。それがいけなかった。文紀さんは「そうでしょ」とおっしゃってそれから、実はこの話を大勢に知ってもらいたいのだが自分で吹聴することなどは品位の点で差しさわりがあってしかねるからぜひあなたの方でツイッターやブログを用いて公表しなさい、という意味のことをおっしゃった。これはたいへんなことである。古本屋業界というものは、ほかのどんな商売とも同じであろうが、限られたお客様を奪い合うためにしのぎを削り、日々食うか食われるかで気の休まる時などない、生き馬の目を抜く世界なのである。それがどうして商売敵の心あたたまる話を宣伝などするものだろうか。こんな依頼を受けるやつはよほどのお人好しである。そんなやつは大成しない。頼む方も頼む方だ。こんなことは僕を競争の原則もわからぬ半人前の、与しやすいアマちゃんだとなめてかかっていると宣言しているのに等しい(あるいは冗談を言い合える気安い後輩だと宣言している場合もわずかばかりあるかもしれないが、今回は考えなくてよい)。いかに敬愛する先輩の頼みといえどもこれは聞けぬ。そのようなエピソードをネット上にアップするなど、まして僕の唯一の安息地であるブログに書きこむなどは断固拒否する。
吉祥寺パルコにはアンティークの博物画をあらたに並べました。1879年~1911年にかけてフランスで刊行された研究書『SPECIES DES HYMÉNOPTÈRES D'EUROPE & D'ALGÉRIE(ヨーロッパとアルジェリアの蜂の種)』に収録されていたもの。複製ではなく当時のもので、納品した150枚弱すべて絵柄が異なります。それから、ここまで読み進めていただいたということはすでに手遅れなのだろうと思いますが、虫の苦手な方は画像閲覧注意です。