薄利少売

「吉祥寺パルコの古本市」補充→資料会へ。資料会では19世紀末パリ刊行のイラスト集を1冊落札しただけ。ひょいと拾い上げて持って帰る。いつもこういう仕入れだけで商売ができると楽だ。風呂敷ひとつで商売をするというのは古本屋が持つ理想の最上級。軽くて高いものを少量売って暮らすのだ。駆け出しの身ではその真逆をやるしかない。重くて安いものを大量に買って売る。なるほど薄利多売かと思われるかもしれないがそれは違う。あなたがもし古本屋になったら間違っても「私は薄利多売ですから」などと先輩に向かって言ってはいけない。殊勝ぶったつもりでもかならずや「ほほう、多売ですか、これはうらやましい」などという冷やかな応答を受けることになる。まさか、そんな対応は信じられない、とお感じなら、あなたがいまいる社会はまともな社会だから古本屋になろうという野望などは忘れた方がよろしい(そもそもそんな野望がないならそれがいちばん安全です)。古本業界とはかくもひねくれた人間の集団なのである。それでももし、万が一あなたが古本屋になるのなら、こんなときのために「薄利少売」という理屈の通らない言葉をぜひ覚えておくべきだ。「薄利少売ですから」「それでどうやって食ってるの?」と訊かれたら「それが自分でもわからないのです。摩訶不思議です」と応えればいい。先輩方は満足されるだろう。実に意味のない会話であるが、一方でこれっぽっちの嘘も見当たらない真実の対話でもある。古本業界というのは単に嘘を許せぬ正直者の集団なのかもしれない。このうえなお食い下がってくる先輩がいたら、その人はどうにかしてこのうぶな新人から、新人ながらにわずかばかり持ち、数少ないよりどころとしているビジネスの手法を根こそぎかすめ取ってやろうと考えている陰険なキツネにほかならないので付き合うのをやめた方がいい(そんな先輩が実際にいるということではありません。断言しますが僕はそんな先輩を知りません。あらぬ誤解をなさらぬよう)。大量に買って売っても、軽くて高いものを少量売る方々より儲かるわけではなく、知識もお金もお得意様もないなら体を動かすしかないという道理。なかなか儲からなくても信じてせっせと働くことだ。未来を信じて来る日も来る日も額に汗して大量の本を扱っていれば、いつかきっとあなたは望みどおりのマッチョになるだろう。生活にきたえられた肉体はすてきですね。

発注していた値札が届いた。事情があって色校正をしなかったのだが、出来上がりは大満足。紙質かインクか印刷か、あるいはそれらの組み合わせによってなのか、色付きの部分が微妙にざらついた風合いで、ため息が出るほどに好ましい(この風合い、写真にはうつらない)。古本屋の値札としては小さいが、このサイズ感がまたかあいらしい。


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